特許・実用新案・意匠の違いは?小学生にもわかる早見表

弁理士の仕事をして10年以上が経ち、全国津々浦々沢山の方からお問い合わせをいただいてきましたが、アイディアやデザインを知的財産として保護することの認知度はまだまだ低いと感じています。

特に、特許・実用新案・意匠・商標の違い、言い換えると、知的財産の保護の仕方にもいろいろある、ということがちゃんと知られていないため、そのときのベストな選択がされていないおそれもあります。

近年、3Dプリンターの普及・オープンソースの思想・部品(パーツ)のネット販売等によって物づくりをしやすくなり、かつIoT(Internet of Things)によりその物の未知なる可能性が格段に高まったと考えています。

そこで、物(プロダクト)のアイディアやデザインを知的財産として保護する特許・実用新案・意匠の違いについて、小学生にもわかるように解説します。

特許・実用新案・意匠の違い早見表

細かい違いはもっとたくさんありますが、下記の表は代表的な比較項目①~⑥とそれぞれの内訳を一覧にしたものです。

比較項目 特許 実用新案 意匠
①審査の有無 あり(審査請求必要) なし(ただし下記⑤に注意) あり(審査請求不要)
②期間(出願~登録) 4年前後(早期審査を活用すれば6か月前後も可能) 3ヶ月前後 6ヶ月前後
③費用(出願~登録) 60~80万円 25~30万円 20~25万円
④存続期間 出願日から20年 出願日から10年 出願日から25年
⑤模倣品への対抗 即日可 即日不可(技術評価必要) 即日可
⑥保護対象 物、製造方法、●●方法(●●=使用、施工、取付など)

補足説明・迷ったときのヒント

①審査の有無

特許の場合、審査があり、かつ審査を開始する要求(=出願審査請求)をしなければならない分、実用新案や意匠よりも、出願から登録までの期間が長く、さらに費用が高くなります。

一方、実用新案の場合、審査がない分、特許や意匠よりも、出願から登録までの期間が短くなります。意匠の場合、審査があるものの、特許と違い出願審査請求が不要です。

すなわち、特許及び意匠は、審査を通過しなければ登録できません。しかし、意匠の審査通過の難易度は、新規性をクリアできれば、特許の審査通過の難易度より比較的低めです。

審査の有無で迷ったときのヒント

競合品にはない技術的な特徴が(好ましくは複数)ある場合は特許、技術的な特徴がほとんどない又は競合品との違いがわずかな場合は実用新案、特許も実用新案も厳しいけど少なくとも見た目(デザイン)を保護したい場合は意匠、がおすすめです。

②期間{出願(入口)~登録(出口)}

特許の場合、出願審査請求を出願日から3年以内にしなければなりません。言い換えると、出願日から3年以内であればいつでもOKで、出願日と同日(出願手続と同時)でも、出願日から3年経過ギリギリでもよく、私的な経験上、3年経過ギリギリにする方が多いと感じています。

出願審査請求のタイミングは、特許を成立させたいタイミング次第です。例えば、出願審査請求を出願日と同日に行えば、トータル1~2年で特許を成立させやすく、逆に、出願審査請求を出願日から3年経過ギリギリに行えば、トータル4年前後で特許を成立させやすいです。

出願審査請求をしてから審査結果(拒絶理由通知 or 特許査定)を受け取るまで1年前後ですが、もっと早く審査結果を受け取りたい場合、早期審査制度を活用すれば、2か月前後に短縮できるため、トータル6か月前後で特許を成立させやすいです。

▷ 参考:特許庁のホームページ内 「特許出願の早期審査・早期審理について

登録までの期間で迷ったときのヒント

“出願済みの状態”をなるべく長くして競合他社をけん制したい場合は特許、がおすすめです。“出願済みの状態”とは、特許が成立するかしないかわからない分、競合他社を動きにくくする(事業活動を鈍らせる)効果を期待できます。

③費用{出願(入口)~登録(出口)}

一覧に示す費用は、平均的な相場であって、印紙代+弁理士手数料+消費税が含まれます。弁理士手数料については、弁理士毎(特許事務所毎)に異なりますので、相場を知りたい場合はインターネットで検索してみてください。

特許を成立させるには、出願手続→出願審査請求(中間手続①)→審査結果対応(中間手続②)→登録手続といった4ステップが一般的です。一方、実用新案を成立させるには、出願手続のみです。

また、意匠を成立させるには、出願手続→登録手続といった2ステップが一般的ですが、審査結果対応(中間手続)が生じることも時折あります。

特許の出願手続も実用新案の出願手続も、必要な書類や書類の提出方法はほとんど同じなので、費用はほぼ同額です。一方、意匠の出願手続は、特許や実用新案の出願手続ほど、必要な書類の分量が少ない分、費用は安めです。

④存続期間

いずれも出願日から起算される点に注意してください(登録日からではありません)。例えば、特許の出願日が2021年1月1日、登録日が2025年1月1日の場合、特許の存続期間は2021年1月1日を起算日として最大で2041年1月1日となります。

また、存続させるためには、年毎に登録料を支払わなければなりません。毎年支払っても、数年分をまとめて支払ってもOKです。また、存続期間が長くなるほど、年毎の登録料が高くなる点にも注意してください。

▷ 参考:特許庁ホームページ内「産業財産権関係料金一覧」の「4.特許料・登録料」

存続期間で迷ったときのヒント

商品のライフサイクルが長い場合は特許か意匠、短い場合は実用新案、がおすすめです。

⑤模倣品への対抗

模倣品が、成立した特許や実用新案や意匠の内容に似ており(各権利の範囲内であり)、各権利を侵害しているおそれがある場合、模倣品の販売元や製造元に対してその旨を通知(警告)したり、模倣品の販売や製造の差し止めを請求したり、模倣品により生じた損害を賠償金として請求したりすること(総じて、権利行使)ができます。

特許や意匠は、審査を通過して登録されているため、即日警告も権利行使もできます。一方、実用新案は、無審査で登録されているため、権利行使する前に特許庁に実用新案の技術評価(特許や意匠で行われた審査のようなこと)をしてもらい、かつその技術が実用新案として有効という評価を得られなければ、警告のみならず、権利行使もできません。これが、実用新案の最大のデメリットです。

▷ 参考:知的財産相談・支援ポータルサイト内「実用新案技術評価請求書について教えてください。

一方、意匠は、物の見た目(デザイン)を登録する分、そもそものアイディア(技術的な構造など)が同じでも見た目が異なる模倣品に対して、警告や権利行使しにくいです。言い換えると、意匠は、完全な模倣品(デッドコピー品)への対抗策であって、見た目が異なる巧妙な模倣品に対抗しにくい点が最大のデメリットです。

デザイン性のある特徴的な部分のみを部分意匠として保護することもできますが、保護する物によっては、その部分の位置・大きさ・範囲(その他の部分との相関)によって保護できる範囲が左右されるため、万能とは言い切れず、過信は禁物です。

▷ 参考:特許庁ホームページ内「「部分意匠」に関するQ&A

模倣品への対抗で迷ったときのヒント

基本的に警告も権利行使もしない場合(つまり、模倣品を黙認する場合)は実用新案、デッドコピー品への対策に注力する場合は意匠、がおすすめです。

⑥保護対象

特許・実用新案・意匠で保護できる対象はそれぞれ異なります。保護対象の種類は、特許が一番多く、特許の保護対象の一部を実用新案や意匠で保護できるイメージです。

種別 保護対象 備考
特許 機械、半導体、ソフトウェア、システム、素材、食品、医薬品、日用品など
製造方法 半導体の製造方法、素材の製造方法、食品の製造方法、医薬品の製造方法など
●●方法 測定方法、施工方法、制御方法、管理方法、監視方法など
実用新案 構造や形状に関する物に限る
意匠 見た目(デザイン)重視、物品上の画面デザインも含む

 

特許で物の見た目(デザイン)を保護することもできます。むしろ、デザインに技術的な特徴(機能性など)があればあるほど、特許での保護が適しています。

保護対象で迷ったときのヒント

製造方法や●●方法の場合は特許一択、物の場合でも審査に耐えられる程度の技術的な特徴が見込めれば特許、見込めなければ実用新案、見込めずかつデッドコピー品への対策に注力するなら意匠、がおすすめです。

まとめ

オリジナルのアイディアやデザインからなる商品を知的財産として保護するには、その商品のコンセプト・技術的特徴・見た目等に加え、事業のビジョンや戦略を前提に、①審査の有無、②出願から登録までの期間、③出願から登録までの費用、④保護できる存続期間、⑤模倣品への対抗策や制約、⑥保護できる対象、を総合的に鑑みて、特許・実用新案・意匠のどれが適しているか検討することをおすすめします。

 

文責:打越佑介

ウェブで特許の相談をする3つのメリット

新型コロナウィルス感染症対策として、政府から緊急事態宣言がなされた2020年4月7日以降、大企業・中堅企業・中小企業・フリーランスを問わず、リモートワーク(テレワーク・在宅勤務)の導入が急加速しました。

ウィズコロナ・アフターコロナの時代における知的財産活動のニューノーマル、すなわち、従来の知的財産活動には考えられなかった新たな常識や常態も、時間の問題かもしれません。

そこで、ニューノーマルの一つとなるかもしれないウェブ会議システムを利用して、特許・実用新案・意匠・商標といった知的財産の相談や打ち合わせをするメリットを3つ紹介します。

オンラインデモを見れる

Microsoft Teams・Google Meet・Zoomといったウェブ会議システムには、参加者同士でパソコン等の端末画面を共有できる機能があり、打ち合わせや相談の際にとても役立ちます。

例えば、新しいアイディアを考えたので、特許を取れるか知りたい、という相談をよく受けます。このとき、GoogleやJ-PlatPatを使って、似たようなアイディアがないかを、その場で検索のデモンストレーションすることがあります。

従来の対面型では、こちらのノートパソコンの画面を見せれば検索結果を共有できましたが、プロジェクターやディスプレイがなければ複数の検索キーワードやこれらの組み合わせ方のデモンストレーションを共有できませんでした。

検索結果は、検索キーワードやこの組み合わせ方によって変わります。つまり、オンラインデモをウェブ会議システムの画面で共有できれば、検索結果への理解が深まるのみならず、検索のノウハウも得られるメリットもあります。

遠隔地からも参加できる

経験上、特許の担当者は、会社の規模によって異なります。例えば、大~中堅企業では、知的財産部門または技術部門の方、中小企業では、社長または重役の方、が多いです。

そのため、実際に特許のアイディアを出した技術者(発明者)の方々が打ち合わせに出席しないことはよくあり、それ自体は弁理士にとって大きな問題ありません。

ただ、発明者の方が特許について知っていると、新たな創作活動をしやすくなるはずです。言い換えると、新たな創作活動にとって発明者が特許のみならず知的財産全般について知っていることは有益です。

その点、ウェブ会議システムであれば、たとえ遠隔地の事業所等にいる発明者の方でも、打ち合わせ日時も調整しやすく、気軽に参加できるため、特許について教育できるメリットもあります。

意思決定を早めにできる

自社で特許を取るにしろ、競合他社の特許を侵害しないようにするにしろ、これらは事業活動と共に検討することです。つまり、事業活動の然るべきタイミングで検討しなければ手遅れになりかねません。

例えば、新規性を失っている商品にもかかわらず、特許を取りたい、という相談をよく受けます。これは、事業活動は順調だったものの、特許取得を検討すべきタイミングを逃してしまったと考えられます。

また、新商品の開発を進めていたところ、競合他社の特許が見つかった、という相談もあります。これも、事業活動は順調だったものの、競合他社の特許を調査すべきタイミングを逃してしまったと考えられます。

この点、ウェブ会議システムを活用することで、このようなタイミングも逃さず、全国どこからでも弁理士に早めに相談できる分、意思決定を早めにできるメリットがあります。

まとめ

逆に、ウェブ会議システムのデメリットが可能性の低い情報漏えいのリスクとすると、このリスクを上回るメリットをウェブ会議システムで得られると考えます。

アイピールームではウェブ会議システムによる特許相談の仕組みづくりに力を入れており、既に利用者の皆様に有益な成果を出せていますので、興味がありましたら以下も参考にしてみてください。

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文責:打越佑介